世界史オンライン講義録

明 日 へ つ な が る 学 び の 場

040 ナチ党の勢力拡大

前回は,持たざる国日本をみていきました。そして,今回の授業では敗戦国から徐々に徐々に復帰しようとしていたドイツです。そのドイツでは世界恐慌のあおりを強く受けてしまいます。そして当時のドイツには世界恐慌に対処できる有能なリーダーはいませんでした。そこで新しく出てきたのがナチ党という勢力です。このナチ党というのは,イタリアのムッソリーニが立ち上げたファシスト党と同じ考え方を持ちます。いわゆるファシズムな政党なんです。「社会主義は許さないし,言論の自由も許さない,でも俺に任せろ!そうすれば,すべての国民を救済してやる」といった政党なんです。ドイツの国民はヒトラーの行動力に期待しました。そして,ナチ党が徐々に徐々に国民から支持を受けて人気を集めていく様子というのを見ていきましょう。

 

 

ドイツ国民を魅了したナチ党

いったいナチ党の何が国民に受けたのか見ていきましょう。まずいきなりナチ党という名前がでてきたんですが,正式な名前としましては国民社会主義ドイツ労働者党と言います。そして軽蔑の意味を込めてナチ党という言い方をするんですね。そして,このナチ党なんですが,まずは政党の名前の意味から説明をしておきます。国民社会主義ドイツ労働者党この「国民社会主義」という考え方なんですが,資本主義経済で発生したあらゆる矛盾,たとえば失業者問題・労働者の低賃金問題・所得格差問題など,これらの資本主義の問題点を社会主義じゃなくて国家が率先して解決していこうとするのが国民社会主義です。つまり,国家が中心となって独裁政治であらゆるトラブルを解決していこうというのがナチ党の理念だったのですね。そして,このナチ党のリーダーであるのがヒトラーです。

 

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このヒトラーなんですが,ナチ党の指導者でありながら,かつ①反ユダヤ主義でして,「ユダヤ人を徹底して排除する!ユダヤ人がいるから,すべての貧富の差は生まれたんだ!」という考えの持ち主でした。確かに,ユダヤ人は昔から商売活動や金貸しの仕事をよくしてました。「こいつらがいるから貧富の差が拡大しているんだ!」と言うヒトラーの考え方も間違ってはいなかったのです。そして,ヒトラーは,②共産主義社会主義でもあって,「俺は絶対に社会主義共産主義の考え方は許さない!資本主義経済の問題はすべて国家が中心となってケリをつける。だから共産主義は絶対に許さない」としたのです。そして,③植民地の再分割も目指しました。「なぜドイツだけここまで酷い目に遭わなければならないのだ!植民地を平等に分配すべきなんだ !」と,このようにヒトラーは力強く同一国民に訴えていきました。ちょうど,ムッソリーニが立ち上げたファシスト党との考え方と非常によく似ています。そのためヒトラーのこのナチ党のことをファシズム的な政党ということもあります。

 

そして,このヒトラーの強い主張と行動力によって,中間層と呼ばれる金持ちでも貧しい人でもない普通の人たちや軍部から絶大な支持を受けたのです。そして,このヒトラーが,ナチ党の活動にあたって整備した組織が突撃隊(SA)あるいは親衛隊(SS)といった組織です。この突撃隊(SA)というのは,ヒトラー反対派をみつけたら暴力でボコボコに叩かれます。いわゆるナチスの私軍ですね。親衛隊(SS)は,ヒトラーをはじめとする幹部の身辺警護組織でして,ヒトラーや幹部を守る組織もあったわけです。ちなみに後にゲシュタポという秘密警察(スパイ)の役割を担ったりもします。

 

このようにヒトラーは突撃隊や親衛隊を駆使して,自分の反対派というのを弾圧していったんです。そして,そのヒトラーが歴史の表舞台に立つ一躍有名になった出来事があります。なんと彼は当時のヴァイマル共和国を倒して強いドイツを作り上げようとクーデタ起こしたんです。それがミュンヘン一揆です。このミュンヘン一揆ヒトラーは,「ヴァイマル政府を倒せ!俺が政権とるんだ!」ということで,ナチ党を率いてヴァイマル共和国を倒そうとしたんです。ちょうどイタリアのムッソリーニによるあのローマ進軍のような形で クーデターを起こしたです。しかし,このクーデターは即座に鎮圧されてしまいます。ヒトラーはこの時考えました。「なぜ国民は私について来ないんだ?」。まぁおそらく理由はドイツの国民性と言ってもいいでしょう。ドイツ国民はそもそもルールを破ることをとても嫌がります。ヒトラーが行ったクーデターは明らかに法律違反ですよね。そのため国民はヒトラーを見放したんです。そこでヒトラーは気づきました。「ああ,わかった!私がドイツで政権を獲得する!国民から支持を集めるためには絶対に法律違反をしてはいけないんだ 」ヒトラーはこのミュンヘン一揆の失敗から,「何があっても法律は守っていこう。合法的な手段で政権を獲得するぞ」といったようにヒトラーミュンヘン一揆の失敗からこのようなことを考えるようになるのでした。そして最終的にヒトラーがめざしたのは,自分でいつでも都合のいい法律を作れるようにすることだったのです。つまり,ヒトラーの狙いは自分に立法権を集めることにあったのです…。なんて恐ろしい…。

 

 

ヒトラーの政権獲得

ヒトラーが政権を獲得する瞬間がやってきます。当時のドイツに一体何があったのか見ていきましょう。当時のドイツリーダーは第2代大統領ヒンデンブルクでした。ところが,そのヒンデンブルク大統領の時代に,あの世界恐慌によってドイツ経済が破綻していきます。そしてヒンデンブルク大統領は,その世界恐慌に対して効果的な対策を打てません。ドイツでは失業者が増え続けます。1930年の地点でおよそ500万人を超える失業者が出たといわれるんです。当時の大統領は何もできない一方,徐々に国民はヒトラー率いるナチ党の行動力そしてその政策内容に期待を寄せるようになったんです。

 

そして1932年の地点でなんとナチ党が第1党になります 。そして第2党は社会民主党,第3党に共産党が出てきます。やはり世界恐慌による失業者の増加がこの共産党の支持を促してしまったんです。このまま共産党が人気を集めるとひょっとしたらドイツはソ連のように社会主義国家になってしまうかもしれませんよね。さらに共産党の人気が出てきたことでドイツの一般国民に焦りが芽生えます。そして,当時の大統領ヒンデンブルクは,第1党のヒトラーに次の政権を譲ります。

 

 

1933年ヒトラー内閣が発足します。そしてこのヒトラーが内閣を作った直後に不思議なことをヒトラーはしました。

「はい,どうも!内閣総理大臣になりましたヒトラーです !じゃあ皆さん,ここでもう1回選挙しましょう!」

なんと,ヒトラーは即座に国会解散を宣言したんです。そして,その選挙活動中に起きた出来事が国会議事堂放火事件です。ちなみに,放火事件は前オランダ共産党員のルッべという人が放火したと言われます。この放火の犯人とドイツ共産党との関わりがあったかどうかは真偽は不明ですが,ヒトラーはこの国会議事堂放火事件をきっかけに,「やっぱりドイツ共産党はやばいよ!」と,ドイツ共産党の危険性を国民にアピールし,共産党を強制的に弾圧していきます。そして共産党が持っていた議席数を吸収していくんです。

 

第三帝国の時代

そして,国会で勢力を拡大したヒトラーはついに全権委任法というのを制定します。これは政府に立法権を委ねることを定めた法律で,つまりヒトラーがいつでも好きなタイミングで法律も作ることができるよっていう内容なんです。これでヒトラーは,行政&立法といった2つの力を握った形になります。これでヴァイマル憲法は事実上停止され ,ヒトラーが権力を握ったドイツは第三帝国と呼ばれるようになります。第一帝国は新生ローマ,第二帝国はビスマルクのいたドイツ帝国,そして第三帝国。ドイツの栄えある歴史がここから始まるんだということですね。そして,全権委任法が成立した後,大統領であったヒンデンブルク大統領が死去します。

 

ヒンデンブルク大統領の死後,ヒトラー大統領首相,そしてナチ党党首,すべての権力を掌握し,彼はやがて総統(フューラー)と呼ばれるようになるんです。このようにナチ党というのは,世界恐慌によって経済が混乱したドイツではあるが,そのドイツ国民を魅了するような形で「大丈夫だ!俺が経済を立て直す!俺がすべてうまく調整していく!おれが社会主義を徹底して潰していく!」と,このように国民にとって聞こえの良い言葉をたくさん並べ,政権を獲得していったのです。